設計コンセプト
【建築の目的】
このビルは、各種エレクトロニクス製品の心臓部を形成するプリント回路基板の製造設備販売を主業務としている朝日電材株式会社の本社が、事業拡大により手狭になった為、新築移転したものである。
事業主からの要望は、出来うる限りのローコスト化をはかりながらも、業務内容にふさわしい機能性と意匠性を持たせる事と夏の大阪の風物詩でもある淀川の花火大会を観賞できる空間を設けることであった。
【立地条件】
敷地は大阪の中心梅田の北部に位置し、淀川からは南へ300m程の距離にある。
周辺はオフィス・工場・倉庫などが建ち並ぶ業務地区で有ったが、最近はマンションや戸建住宅などが増えつつある。
【空間構成コンセプト】
平面は、約13m×15mの無柱空間と円弧壁で囲まれたコア、及びそれらを繋ぐホールから構成されている。
無柱空間部分は機能性・合理性、将来への可変性などを追求し、明るく開放的でフレキシブルな業務空間となっている。
円弧壁に沿って昇り降りする階段室は上下移動にエレベーターを使用しない社員にとっては重要な空間であり、廊下状の壁面にさまざまな展示物や情報案内がかかげられ、明るくダイナミックなギャラリー空間でもある。
業務空間とコアに挟まれたホール部分は、ビルを訪れた人たちに最も強く印象を与える空間となっている。エントランスは決して広くないが、シンボルツリーを配したアプローチから正面奥の坪庭まで、室内空間であるエントランスホールと外部空間が視覚的に連続する事により視線が広がり、吹抜けによる2階ホールとの一体化でさらにゆったりとした空間となっている。
各階のエレベーターホールもガラス張の打合せ室を透かして光が入り込み曲面の塗壁を柔らかく照らし出している。
石と金属とガラスで構成され、効率的に創られた業務空間と手の温もりが残る円弧状の塗壁に沿って人を招き入れるアプローチ及びホール空間とを対比させる事が、このビルの意匠コンセプトである。
【基本的設計方針】
シンプルな構造と形態によるローコスト化をめざしたビルであるが、効率化だけを追求した訳ではない。最上階には社員の為のラウンジスペースを設け、芝と木製デッキによる広々とした屋上庭園では開放的な屋外空間を楽しむ事も出来る。この空間は淀川の花火大会では多くの来客でにぎわう。
オフィスビルには規模の大小に関わらず緊張と緩和、両面を感じさせる空間創りが必要と考えている。
|